はじめに

  •  こどもたちはみな、休むことなく学びつづけています。
     イルカの肌の手ざわり、速い球を打ち返せるスイング、ミニ四駆の改造法、雪のつもった快晴の朝の風の匂い、こどもたちの語ってくれる話は、どれもみな、初めて気付いた驚きと喜びで輝いています。

     しかし、一方、成績、受験、学歴といった、社会にとって有能な人材を選別するためのシステムが、早くから、こどもたちの学習課題を厳しく規定しています。そして、年齢が上がるにつれて、その厳しさは増してきます。
     この枠の中で、はつらつとした学習意欲を保ちつづけることは、容易なことではありません。多くの中学生、高校生が、学習の中に喜びを感じることを、はやばやとあきらめてしまうのが現実です。優秀な成績を収めている生徒であっても、その大半は、成績獲得のための手段として勉強しているに過ぎません。

    生徒たちが、教科をよく学び、試験で高い評価を得、自分の学歴を選べるようになるために、私たちは力の限りを尽くします。
    しかし、それと同時に、教科の学習を通して、その底に流れる人間の精神の力を、生徒たちとともに信じ続けていくことも、私たちに課せられた大切な仕事だと考えています。
    そして、この姿勢を貫き通すことによって、若く、幼く、不安でいっぱいの人たちが、社会の現実に体ごとぶつかり、挫折と成功を繰り返しながら、自分の個性を追求していける場所をつくりつづけてまいります。
  •  1996年3月